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材料より観たる時計

12. 頁58〜63

天府

天府

〔58頁〕


この両者の絶対比を定めることに関しては 前にも記した彼の有名なウオルサム時計技術師のジョン・ローガン氏は一の振動機(Vibretion machine)を発明しました。 これに依って非常に正確に組合わせ、各個の天府輪に夫々適合したものを選ぶことが出来ますから、 出来上がった時は先天的に正確なものであります。

これがウオルサム時計の正確なる有力な一因であります。

天府輪(THE BALANCE)

時計には種々雑多の要件がありますから、それらを充すためには他の何れの機械にもないような種々な要求が起って来ます。 単に時計が耐久性があると云う極めて平凡なことでも、深く考えれば、 その真に不変の仕事を絶えず続けて行くのに驚かざるを得ませぬ。

ウオルサム時計は激動や、温度の激変のような其他更に強く器械に影響するようなものにも全然無関係のようであります。 時計に此の周円の凡て  【→ 60頁に続く】

〔59頁〕


の影響から独立し頑強な性を与えるのは、その内にある多くの科学上の発明に依るもので、 切天府輪(Compensating balance)の如き最も興味深いものであります。

凡ての金属は温度の影響によって伸縮するのは自然の法則に明らかな所であります。 ひげぜんまいは其の量の割にその表面が非常に広いから、温度の影響には最も鋭敏であります。 温度が昇れば長さが増し、長さを増すにつれ其の強さは弱って来ます。 この熱による膨張は別としても他の種々な自然の法則に支配されます。 而して熱は又その弾力をも弱めます。

切天府はひげぜんまいの強さを弱める熱が、同時に天府輪の直径を小さくするように出来て居て、 弱められたひげぜんまいの力を補う様になって居ます。 此の自働的の補償作用は天府の輪を膨張率のずっと異った二種の金属で造ることに依って出来るのであります。

ウオルサム天府の材料には、特殊の鋼鉄と真鍮とを鎔接してから高圧のもとにロールをかけ鍛えたものが用いられてあります。 この標準ウオルサム天府製造には十三の主なる操作と六百の細かい工作とを要します。

その天府輪は欧州製のそれよりも鋭敏に寒暖の変化に応ずることが出来  【→ 61頁に続く】

〔60頁〕


きます。欧州製のものは往々非常にやわらかく鍛錬を欠いて居るから、 正しい時間を報じ又は容易に修繕することなどは不可能であります。

欧州製の天府輪は金属の鎔接や、その鍛冶の度合いが一定均一でありませぬ。 これらの性質は時計の性格なことに対しては極めて重要なことで、 而もこれらはウオルサム時計工場にある専門的な秘密の機械によってのみ製造せられ得べきものであります。

以上はウオルサム時計器械の背後にある種々の工作を一暼すると同時に 又世界に類ひなき正確なものを造り上げる機械の二三を紹介したに過ぎません。 それ等の工作機械は総て、優良なる時計を製出せしめんが為亜米利加の天才によって発明に次ぐに発明を以てし、 改良に改良を加えられたるもので、殆ど一世紀にも亘る辛苦の賜物であります。

其の他材料や設計の卓越、宝石からぜんまいに至るまでウオルサム時計の総ての部分の聲価を高からしめた進歩せる製法をも述べました。 而して更に現に其の熟練によってウオルサムの成功に多大の貢献をなしたる幾多の優秀なる技術者等に深く敬意を表する次第であります。

〔61頁〕


器械の組立

器械の組立(仕上げ)

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器械組立部(THE MASTER ASSEMBLER)

時計技術家のうちで、器械の組立を為す人の仕事は極めて重大であります。 彼等は長い経験によって品質に於けるウオルサムの標準を能く会得して居て、 時計の正確を多少でも害うような懸念のある極めて些細な技術上の誤りや、材料の欠点があれば、直ちにそれらを認めることが出来ます。

組立員は天府と髭ぜんまいの組合わせをも為すは勿論であります。 両者は前述の如く時計の心臓、頭脳に相当し、年が年中諸君のポケットや腕の上、 さては帯の間で毎日四十三万二千の振動を続けて居るのであります。 諸君は、その機械的の驚異には余りに考え及ばないでありませうが、 ウオルサムに唯一つの事を無上に完全に仕上て居る所の数百の優れたる技術者が居るのを知る時には、 更に其値打ちが了解されて来ます。 其の人々は皆極めて熟練せる時計師で、而も斯く団体的に作業をして居ると云うことが、 ウオルサム時計の世界競争場裡に優勝者たり得た有力な原因であります。 此の団体的作業の立場より欧州の孤立的な組立員を思う時、彼等の如何に  【→ 65頁に続く】

〔63頁〕


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