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材料より観たる時計

8. 頁34〜39

ひげぜんまい

ひげぜんまい

〔34頁〕


確不揃なる時間を示す原因であります。

右に述べた理由により、不良なるぜんまいは即ち不良なる時計で、如何に高価な時計でも駄目であると云うことを記憶せねばなりません。

ウオルサムぜんまいの確実なる優越性、注意深き製造及び過去に於ける幾多の経験は、その時計が安全であり、 信頼すべき原動力を有することを信ぜしむるに足ります。

ひげぜんまい(HAIR SPRING)

前に述べたる如くぜんまいが時計の原動力であり、心臓であり、生命であるならば、 ひげぜんまいは時計に於ける頭脳に相当するものであります。

ひげぜんまいは極めて微妙な発條で、長さ十二吋、巾百分の一吋、厚さは千分の二・五吋で重さは一封度の九千分の一なる平たい針金であります。

ウオルサム製七半形婦人時計(直径十銭銀貨大)に用いられるひげぜんまいは、一封度の鋼鉄から実に八万四千個を製出さられ、 是れが為め一  【→ 36頁に続く】

〔35頁〕


封度僅か五弗の鋼鉄の塊が三万弗にもなるのであります。

ひげぜんまいの作用は天府の運動を調節するにあります。 其の製法は鋼鉄をダイヤモンドの間から引き出して適当な形に作り上げるので、上述小形時計用のものの如きは極めて細い毛髪の三分の一の厚さに過ぎませぬ。

ひげぜんまいには2種類の型があります。 即ち扁平型(平ひげ)及びブルゲー型(巻上ひげ)であります。 ブルゲー型ひげぜんまいは、その発明者なる有名な昔の佛国時計師の名を取ったもので二重に巻き上げてあります。 これは何のウオルサム時計にも使用してあります。 其の製造の全過程に於いて最も重要なものは巻上げの形成と焼戻しの方法とであります。

ウオルサムでは手で順次に曲げて行かずに、一度に全体の形を拵え上げて了ひ、其の儘焼入及び焼戻を施すのであります。 これは米国時計師のジョン・ローガン氏の発明にかかるもので、氏は実にウオルサム指導者の一人でありました。

真実ウオルサムはブルゲーひげぜんまいを完全に製出し得る唯一の会社であると云うことが出来ます。 斯かるぜんまいは世界の何処にも見出し得ざる所であります。

〔36頁〕


この完全なる製法により、巻き上げられる部分は他の部分と全然同一の弾力を有し、 鋼鉄を焼戻して後曲げて形を造るが為に生ずる欠点から免れて居ります。 ウオルサムぜんまいの長所の有難味は、それが一日に四十三万二千回も伸び縮みをすることを考えて見れば分かります。

この成功せるウオルサム髭ぜんまいと欧州のそれとを比較して見るならば、 欧州製は先ず平ひげの形に造り、その儘で焼入焼戻しを為し、然る後に外側のものを巻き上げて、 ブルゲー二重巻を造るのであります。 而もそれが若しウオルサム製と同じ程度に焼入せられて居るものとしたら、恐らく正しい形に曲げ得ないのみか、 曲げようとしても直ぐに折れてしまうに相違ありません。

こんなふうにウオルサムひげぜんまいは極めて重大な点に於いて欧州製とは全く異なって居ります。 それは独創的な他の到底窺い知るを許さない或る秘密の方法に於いて他のものに優れて居り、 器械の極めて重要な部分にこの卓越せる機能を与えらるるが故に、時計の使用せらるる限りは、常に信頼すべき正しい時を示すのであります。

〔37頁〕


地板部

地板部

〔38頁〕


地板部(LOWER PLATE)

機械学的に謂えば、時計とは約百五十の部分から成る器械であって、絶えず運転すると云うことをその唯一の目的とします。 而して其の運動が絶対的齊一に極めて近くなれば時計として最も優良となるのであります。

時計を開いて、その器械を検しますに、それは主として二枚のうけ板より成り、 その間に噛み合える歯車の連結装置があって指時の作用を掌ります。 これ等の歯車をトレイン(輪列装置)と言います。 それについては後に述べましょう。

ウオルサム時計の地板の上には総ての機構が取付けられ且つ運転して居ります。 この板に多くの孔があって、器械の主部の廻転軸だの、螺旋だの小歯車などを受けて居ます。

ウオルサムに於ける七十五年の時計発達史上に多くの人の名が特筆大書せられました。 彼等の発明的天才と而して夢想を具体的に実現する熟練とによって、時計製造術の上に大革命を来し遂に驚くべき時計器械が製作せ  【→ 40頁に続く】

〔39頁〕


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