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材料より観たる時計

10. 頁46〜51

世界最小のねぢ

世界最小のねぢ

〔46頁〕


世界最小のねぢ

機械の話が出ると、誰でも直ぐに其の動力や巨大さに話が向き勝ちなもので、 細工の微妙さとか操作の精緻などに関しては余り考え及ばないのが常であります。

巨大な機関車の傍らに立ち、又は一撃数トンの蒸気鎚などを見る時は、思わず心の戦くを禁じ得ませんが、 試みに今若しある一つの旋盤が極めて微妙で精密で而も驚くべき程正確な働きをためし、 肉眼では単に反射光線に閃めく金属の点のようにしか見えない程小さな螺旋をひっきりなしに製出し、 しかも其螺旋は一吋に二百五十四個も並べ得られ、小さな指ぬきにも優に四万七千個以上も植えることが出来るほどそれ程小さなものである時、 諸君は果たして何と云うでしょうか。

或いはそんなことは到底不可能だと諸君は思うかも知れないが、実際其螺旋をとって強力な拡大鏡でそれを見るなれば、 直ちに其の疑いは解かるると同時に、ウオルサムの工作機械に対する諸君の称賛は、此の優れた仕事に適応しい讃辞となるでありましょう。

〔47頁〕


ねぢは焼入焼戻せられ、その頭は磨かれて冷光を発します。 そして完全な円味を有し、太さも絶対的に均一であります。 熟練せる時計製造者が、この微細な一片の細工物を十銭銀貨大のウオルサム婦人用時計器械の適当な場所に植え込むのを見れば、 諸君は何人も欧州製時計が米国製と匹敵するなどと云うことを許さないと誓うでありましょう。

この事実は米国の天才等が不可能を可能ならしめ、又人の手の及び得ざる卓越せる機械を以て幾多の奇蹟を演じつつあるを示すものであります。

欧州の手製の螺旋をウオルサムのものと比較すればウオルサム標準の如何なるものなるかを知るに足りましょう。 全く両者の差は極めて明らかであります。 前者は形もまちまちであり、細工も粗末であるのに対し後者は均一で、 同様に製出される幾千のネヂが何れも一々正確で完全なことは総て一個の標準のうつしであります。

そして之れ等はその時計が懐中にあらうと將た腕にあらうと絶えず正しい時間を保つウオルサム標準を保証して居ります。

〔48頁〕


ウオルサムの賞牌

世界の大博覧会に於いてウオルサム時計に与えられたる賞牌の一部

〔49頁〕


操縦機

操縦機

〔50頁〕


操縦機(ESCAPEMENT)

時計器械の複雑な部分では、特に構造上興味の深い点に一寸触れ得るのみで、 詳細なる構造や運転に就いて充分に述べることは、この小冊子の許さぬところであります。

操縦機は時計器械の急所で、謂はば時計の心臓とも云うべきものであります。 人体に於ける心臓が生命と精力とを維持するために、血液を体中へ送り出す様に、 操縦機はぜんまいから来る力を案配して、これを指時装置の部へ移します。

即ちぜんまいから歯車の列を通って天府輪に移さるる動力を支配し、其の運動に毎時一万八千の鼓動を打つ様に区切りを入れ、 この脈動は針によって文字板面に指さるのであります。

操縦機は操縦機輪(がんぎ)と二ツの爪石の嵌ったアンクル、ローラー及び下げ石(ローラーピン)から成って居ます。 アンクル及び爪石の目的は伝動輪列の後端なるがんぎを一秒の五分の一位の等しい時間の間隔で止めたり離したりするにあります。

〔51頁〕


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