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時計技術の相互研究

111. 爪石の修正

[問]爪石の中が廣過ぎるものを小さくしたいのですが砥石にてみがいて後程○止角にヒビや欠けるなどの事はありませんか。 又他の方法を御教え下さい。

[答] 爪石や穴石等はみがくだけでも現在の所では(日本)六ヶ敷い(難しい??)のですから況んや小さくする等の 製造作業に○した事は先づ出来ないといふ外はないでせう。 理屈をいへばいへない事はないが理論的に順序立てて説明が出来かねます。

112. 二番車の入歯

[問]十二サイズの二番車に四本の入歯をしたいのですが四本とも入歯で耐久力がありますかお尋ね致します。

[答] 四本共入歯しても耐久力はありますが一本づつ別々に四本を入歯したのでは危険ですから同じ地金で四本 連続の入歯にしないと危ない事です。又これは別問題ですがウォルサム等は入歯せずに全部新規のものに 取替へるのが時計のために必要でせう。

113. 注油の方法と種類

[問]懐中時計及置時計のメーン・スプリング(主要ゼンマイ)の注油に関し潤滑性を与へるのは如何にせばよいか。 ある権威者は懐中時計及置時計の他の部分より主要ゼンマイに注入する油は特別のものを要するし 又巻上げの部分の油も異なるものを要するとの事を聞くが本当でせうか。以上の説明に預かりたい。

[答] 御問合せの注油に関する主要なる事は重い油は機械の活動の激しい部分に注油すると、この圧迫のために潤滑 度を減殺するものである。此の反面には重い油は潤滑性が軽い油よりも良好である。 だから歯車及び天府軸に注油するのよりも主要ゼンマイと天府部分に注油するものは、これと異なって軽い油を必要とする。 この原理に従へば角部分の性能に応じて少なくも六つの異なった油を要するのである。然しながら実際上の 問題としては、斯る煩雑な沢山の種類を使用する煩ひに耐ゆるものでない。 最良の時計製造者は左の如き方法の注油をなしてゐる。 即ち置時計の総ての部分には一つの重い油を使用し、大型の懐中時計にはそれより軽い油、小さい懐中時計には更に軽い油を 使用する。 市場には四つの種類が販売されてゐる。即ち置時計油、懐中時計油及びブラシレット懐中時計油のそれである。
或るメーカー(製造家)は四つの異なった油を使用して摩擦の圧迫を減殺する。 重い油も使用量に依って軽い油と同様の性質を示すが経済家は安い置時計油で高い懐中時計油の代用をなしてゐる。

114. 時計油の季節向の選択と効用

[問]懐中時計の冬期間に於ける差油は濃いほう良いですか、薄い方が良いですか。

[答] 懐中時計の差油の濃淡に関しては我が国の如き温暖国であっては極寒極暑のある国のやうに特別に暑夏と厳冬 と区別する必要はないが然し暑いと油は溶け易いから薄い方が良く又冬期は油の結氷しない範囲で濃い方が 良いですが、去りとて油脂の出来るやうなものは特に避くべきである。 油の結氷点はかなり低いから大抵の場合は日本では油の(時計側に含まれてゐる)結氷するやうな事はないのである。 油を差すと云ふ事は円滑なる運転をなさしめる事と空気中の酸による鋼鉄部の酸化を防止する為である。

115. 四百日巻の性能の調整

[問]ドイツ製四百日巻置時計の精確さは如何にして出来るか、又最初の六ヶ月と最後の六ヶ月との間に時間運行上の速度が 同一であり得るでせうか、この点御伺ひ申上げます。

[答] このドイツ製四百日巻の時計は主として転捻振子を使用してゐるから時計上の精確の度合いに於ては余り望み得ないのである。 斯の時計は普通の振子のものよりも、その精確度は幾分劣るものだ。然しながら転捻振子時計は一週間に於て 一分間のある一定数だけの誤差しか許されてゐないから理由から云へば他の一般時計に比して遜色がないのである。 ゼンマイを巻いた最初の六ヶ月と最後の六ヶ月との運行速度は同一であるやうに調整されてゐるべき筈で、 若しこの調節機械が正しくないならば最初の六ヶ月のスプリングは最後の六ヶ月よりも強力であるから前者は運行が迅速で 後者は運行が弱く遅い訳である。 然しこの四百日巻の如きは四百日全体を通じて平均時速を保つやうによく調整されている。

116. 懐中時計の全舞の巻き加減

[問]懐中時計のゼンマイを捲くのに、各二十四時間毎に一回づつ捲くのがよいか又二十四時間に二回か或い は各三時間及四時間に一回捲くのがよいですかお報せ下さい。

[答] 如何なる懐中時計でもゼンマイの捲き方はなるべく回数の少ない事がよいもので且つ之が規則的である事を必要としてゐる。 大抵の時計はある平均した一定の間隔をおいて規則正しくゼンマイを捲く事を要求してゐる。 故にある人は懐中時計を各十二時間毎にゼンマイの力の変化が起らん内に捲く事が二十四時間に一回捲く事よりも 正しい時間を示すと云ってゐる。 これに従へばその全力が消滅し切らんで、未だ正しい時間の運行を示してゐる内に捲く事が一番によいと云ふことである。
他の方面に於て若し懐中時計を短い間隔の捲き上げを規則とするならば、あまりにそのゼンマイの力は強力に過ぎて 二十四時間の能力内に於ては幾分に進み過ぎを来す憾みがあり、又機械に過重の力を加へる事になって来るから慎むべきである。

117. 湿気によるヒゲ全舞のサビ予防

[問]懐中時計のヘヤー・スプリング(ヒゲゼンマイ)が湿気の気候中に使用されてゐる場合に錆を生ずるのを防ぐやうな 取扱ひは如何にせばよろしいか。

[答] 湿気の多い場所にて鋼鉄のヘヤー・スプリングの錆を完全に防止する方法はないと断言して差し支へないでせう。 沢山の最新式懐中時計はこの点を考慮して不錆の材料即ちエリンバアル、ニバアロックスその他を使用した ヘヤー・スプリングを使用してゐるのである。 但し器械に使用中でなくも保存と予防手段ならば普通より濃い目のクリーム状の油を塗っておくと幾分錆を防ぐ方法である。

118. 二番車の締合のゆるみ

[問]エルヂン十二サイズの中眞がゆるんでゐるのですが如何にせばよろしきや改正方法を御教示下さい。

[答] 御質問は二番眞と三番車のゆるみだと思ひますからその意味で御答へ致します。普通の場合は眞と車とがゼンマイの切れた時に その締め具合がゆるむのです。 之には目打ち台にその眞を差押へて之の上からタガネ(ポンチ)で打てば締られます。 しかし余り強く打つと狂ひを生ずるからこの点注意さるべきです。 エルヂンの場合は、この組織が普通のスイス物やウォルサムと異なり二番眞と歯車がカナに依って締め合せてあるから 中眞を二番車に極め付けてネジを締直すと宜しい。

119. 全舞掃除上の欠陥

[問]懐中時計のメーン・スプリング(主要全舞)を掃除する為にベンヂン油に浸すが、これは本当のやり方でせうかと、 私は或る時計師からメーン・スプリングをベンヂンに浸す時は時々破損を来す事がある上に掃除後に於ても機械をみがく場合に ボロの上の新しい油を拭い去るから悪いと聞いたが御意見を聞かして下さい。

[答] 学門上ではベンヂンを使用してメーン・スプリングをこれに浸したり、洗ったりする事に依って破損すると云ふ科学上の理由は ないと思ひます。 メーン・スプリングの場合これが為に破損する事は少しもありません。 一説にはベンヂン油に浸した際に破損するのは製造の工程に於て生じたスチールの上に顕微鏡的(些細の意)の疵がある為に起るので、 ベンヂン油に浸した為に起ると云ふが如き事は絶対にないと信じます。 又この為に破損の割合が増加するとは信ぜず、実験及び時計製造所の実験成績に徴しても単に一、ニの宝石が脱落する位のもので 五割などの不成績はない。 だから貴方の御問合せの場合は明瞭に掃除時間が長過ぎた事を証明するものであるから、 なるべく手早く部分品を液から引上げるやうに心掛けなければなりません。

120. 滑車の機能と錘の性能

[問]正規の時計の錘りは一般に滑車の上に掛ってゐるのですか。若しこの滑車を取り外され、さうしてこの 錘りを直接にゼンマイの函に掛けた場合には如何にすべきでせうか。

[答] 御問合せの理由として滑車を使用するのは同時計に於ける錘りを吊上げるコードを捲き上げるために用ひられるのであって、 このため滑車を使ふのが効果的です。特にこれは短いケースの時計にはこの装備が必要だ。 可動性の滑車を使用する効果は錘りの運行を減ずるのである。
滑車の配列なくしてはコードの距離を短縮して同一の力を現はす事は出来ない。 そうして若しこの滑車を使用せんとすると古い錘り時計のやうに長い紐を高い所から下げねばならぬし又錘の重量も半減に しなければならん。 若し貴方が第二の問合せのやうに滑車を取り外して錘りを直接に香箱に掛けるとすると、これまでの錘りの二倍の重さの錘りを 必要とし、コードもこれに応じて重くしなければならん。 振り玉の運行は以前のものより各鼓動は遠くなるから一般には時計は遅れるものだ。 若し振り玉を充分の強力にすれば遅れる代りに速くなり他の効用は勿論この錘りケースの底に達した時に時計の時間に 止まってしまふから、滑車を多くし長いコードを捲き時計の底に錘りを達しめない事を設計しなければなりません。

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