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時計技術の相互研究

81. 磁気の完全排除の方法

[問]私は十一半型リグニー型懐中時計を持ってゐますが、この時計の磁気を排除するには大変に面倒の事ばかり起って来て 閉口ですから良い方法を御教示下さい。 不完全の排磁気をされた時計であるらしいですが如何にも旨く行かない。
これはヘヤー・スプリング(ヒゲゼンマイ)が特別鋼鉄であるのか且つこれには排磁気の作用を施していないと思はれる程 磁気を帯びてゐる。 そこで私はマグネット(磁気)をこれに加へて排磁気性器械をも持ってゐるし、仕様通りスピンドルとマグネットも完全のものですが、 旨く排磁気が出来ないのであるがこの点も御教示下さいまし。

[答] 大体現在の懐中時計で磁気の除去をやらないやうなものは一つもないし、その時計も磁気は排除されたものと思はれるが 何かの事で磁気を帯びて来たものと思はれます。 磁気の除去が旨く行かぬといふのは恐らくは貴方の排磁気器に欠陥があると思はれます。 若しその磁気が強力であればキット完全の排磁気が行わはれると思はれます。 若し磁気の場所(磁場)に於ける磁力が強力であるやうにバネを調節し連鎖をよくするならば磁気ランプもよくなって 強力マグネット場を構成するから完全の排磁気が出来る訳だ。
私は且て完全の排磁気器で磁気性を除去し得ない事は見聞しません。

82. 天府振石及ホゾ石の固着方法

[問]懐中時計の振石のセメント付けする能率的の方法を知りたいのです。いろいろの方法で振座を保つ様 にしたのですが、余り満足の結果は得られなかった。要するにシケラックの棒でローラー床に宝石を接合す る操作の良策を知りたいのです。又通常振石嵌込器は宝石嵌込の自由の操作を妨害する様です。此の点御教 示下さい。

[答] この操作は懐中時計の宝石嵌込みは屡々起こることで、この操作は完全を要するものである。 ギザギザの方で天府(バランス・ホイール)を押して座の方に振座を付け天府輪の方を左手で持ち、振座の古いシケラックを よく除去した後に右手でピンセットでシケラックの新しいのを入れ、熱のある中に宝石をよくピンセットで嵌込むとよいのです。 こんな針金だけの簡単ですが右手が自由にあるだけによく仕事が出来るのです。 なかなか図解のない説明では了解が困難と存じますが実際に就て御研究下さい。
第二法
宝石止めにラックを使用するのは振石と爪石だけです。ホゾ石は勿論受石もラック付けは不可です。 振石を留めるに天府真より振座を取ると困難であるならば、元の古いラックをよく除去して振石を嵌込み少し裏へ出し加減に 天府を振れ見で持ちて新しきラックを振座の裏の方へ少量当てがひ、ランプの火にカザシ、そのラックの溶けるを見守って 振石を軽く正確に必要だけ押し戻してラックが充分に溶け込むを見届けて火熱から遠ざければよいのである。
振石は極小のものであり仲々振座の穴へ嵌込むに困難であり飛ばして紛失する事がよくあるが、此の極小の振座を ハサミ持つ工具が出来てゐるのであるから、若し手近かで求め得られぬならば此の種の工具は必要に応じて自己が工夫して作るべき で斯かる工夫や製作は時計師たる者はその趣味的にもやるべき程度のものである事に心がけられたい。

83. 時計歯車の槌打法

[問]懐中時計の歯車の歯が変にソリかへり具合が悪くなったのですが、最も簡単にこれを修理する方法を問ふ。

[答] 実際上の損所を見た上でないと適確の事は申上げ兼ねるが、なるべくは面倒の修繕を避けて新品と取換ふべきであるし、 また歯の磨滅であるならば、フライス十歯の剥削機で新しく歯を削るべきである。少々位の歯のマクレならば金槌で金敷の上で 静かに打つ事によって修理される。 最もこの場合に注意すべきことは、金敷の真中に歯車を乗せず、成るべく手前より遠い端に磨損の方の半分だけを乗せて金槌は 垂直に打たずに斜めに押し出すやうにして打つとよい結果を来す。

84. 天府ヒゲの外し方

[問]私は懐中時計の天府のヒゲを取外すに小刀又はネジ抜きの先を使用してやりましたが、 これにて天府の溝を曲げたり角度が狂ったり他の部分を傷つけたりするのである。何か良法はありませんか。

[答] 小刀やネヂ抜きを使用してヒゲ玉を取外すのでは小刀と拇指(おや指)及食指(ひとさし指)の圧力が天府の輪口の部分的に加わって、 どうしても曲がったり狂ったりする。 これを完全にやるには、ヒゲ玉抜きに適せる特殊のパンチ(先の平らのヒゲ玉を下から挟み上げる道具)か同じく先の反った小さい 細いヤットコを天府のヒゲ玉の下に両方から入れ、静かに両方とも平均した力でヤットコの理屈を応用してこれを上に押し上げる と完全にヒゲ玉は取外されるのである。

85. 歯車仕掛の組立遊びの検査法

[問]懐中時計の各歯車装置が適当であるや否や、例へばキジ車と第一、第二、第三歯車との○働装置の噛合せの具合を 検査する簡単な方法を承りたい。

[答] 懐中時計の歯車の○働装置の具合、主として「遊び」を検査する方法の大切の事は、もしこの検査を急つて組立てた場合に 完全の運行をなすや否や不明なる上に修理すべき歯車の噛合具合の箇所を発見しない事となり、 修繕の第一手段を誤ったと云わなければならぬ。 歯車仕掛けの「遊び」の検査をなすには、カナを与へ、指または先の細く尖った二本の木片(鉛筆の様な)を以って歯車を押し、 またカナを圧して見るのである。 この検査を歯輪の六乃至八点に行ひ、此処で行ったり来たりの運動を与へて「遊び」が全廻転に、又カナの総ての点に於て平等で あるや否やを確認するのである。 この場合に拡大鏡を以って噛合せの具合を拡大検査することも大切のことである。

86. 修繕には小缺陥を見落とすな

[問]分解修繕後に単なる時間調整のみではなかなか正確の運行をしないのですが、これに対する意見を問ふ。

[答] これは時計修繕に対する根本的の問題である。修繕をなすには先ず修繕すべき箇所を適確に知る事であって、 分解した結果自分の認めた箇所以外にも欠陥を発見したならば如何なる小欠陥と雖もこれに適当な修繕を加へてから組立を やらなければならない。 さうでないと組立後間もなく再び故障を起こすものであるから正確の運行をなす各部分品の正否の状態の検査をしてから ストップをなす原因だけの除去に努めなければ正確を期した修繕とは云ひ難いから修繕後の組立の際にはよくよく各部分を 詳細に調べて大丈夫と云ふ見込の後に組立・調整の検査をなすべきである。少し位の缺陥でも見逃す事はやがて大欠陥と同様の 故障を引き起こすから之は時計技術者の特に注意しなければならない点だ。

87. 安物四ツバネ式ケース入替の注意

[問]懐中時計十六プリンスウオールト等の時計に悩まされてゐます。 以前の機械にて別に破損箇所はありませんが調子の出ない時計です。 わけてゼンマイを巻き切った場合調子が悪く、分解も丁寧にやり特に注油は細心の注意を払って居ります。 今までこの時計については同業者から調子が悪いと聞いて居りますが、やはりどこかに悪い所があるだろうと思って居ります。 原因をお知らせ下さい。
二、
懐中四ツバネ式ケースの中へ機械を入れると竜頭が固くなってしまふのがありますが、どうした原因でせう。 多分硝子ブチと裏ブタで機械を押さへる加減と思はれますが、この修理方法を御教示下さい。

[答] お尋ねの時計は現在の普通のものではなく、仰せの通りの調子の時計です。 大体ウオールト等は爪石がないのですから磨滅するのが早い。 又部分品も普通のものが使用してあるかどうかも場合によっては判りませんが、兎に角天府のホゾをツメてなほ調べて御覧なさい。
二、
これはご想像の硝子ブチや裏ブタの故障ではないでせう。四ツバネ式ケースは竜真が太くキカイに堅く入るからである。 新規のケースであったら太さと長さをキカイに合はせてスリ合はせて入れるべきです。

88. 「ガタ」の意味

[問]「ガタ」といふ意味はどう言ふことですか。お知らせください。

[答] 「ガタ」とは時計技術として修理の場合に用ふる国内の熟語です。 つまり、「動揺」又はグラグラすること等の事で俗にいふガタ付くと言ふ場合の意です。

89. 単一性天府輪

[問]単一金属の天府輪---単一金属製天府輪と称するのは如何なるものを指すや。又如何なる懐中時計に 同品が使用されてゐるや否や御伺ひ申上げます。

[答] 単一バランス(天府輪)と称するものはバランス縁と腕状部が単一の金属でできてゐるものを指すもので、 合金バランスと区別されるのは単にこの単一の金属で出来てゐるといふ点だけです。
懐中時計の部分品としては、真鍮と銅線との合金によるバランスの方が寒暖に対する異なった二つの性質があるために狂ひが 少ないので最良のものとされてゐる。 単一金属のバランスは製造コストが安いので多くの安時計に採用されてゐる。
スプリングのみを鋼鉄合金でつくって天候に対する適応性をもたしめやうと云ふものが多い。 更に上級のものになるとバランスも両金属合金を以って製造して天候に対する適応性を保たしめるのである。

90. 全舞の持つ弾力

[問]十二サイズの懐中時計に於ける主要スプリングの弾力は如何なるものか?この種の懐中時計の型には平均して ヘヤ・スプリングは四回のフレア・シャンプをなすのである。 こんな質問をするのは要するに客が科学上の興味から、この主要ゼンマイの力は一馬力の何分の一に当るや等の質問を掛けられて 弱るからです。

[答] 十二サイズの懐中時計の主要スプリングは平均して約一ポンドの三分の一の物を動かす力の割合を持ってゐる。 一馬力は諸君も御承知の如く五百ポンドの重量を一フィート持ち上げる同等の力を示すから、必然的に貴方の御質問のスプリングの 力はこの理論の結果として一馬力の千六百五十分の一の力であるといふ事が出来る。 だから言葉を換えて言へば、このスプリングは一馬力の力に対し、千六百五十分の一の力で動いてゐる訳。

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