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時計技術の相互研究

41. 大物用文字板の作り方

[問]乾燥後に少しの水泡状もないきれいな時計の文字板を造りたいと思ひますが、如何にせば良いでせうか。

[答] 貴方の御問合せは恐らく米国製時計の文字板で裏は板金で出来ていて印刷した新しい紙製文字板に就いての事と存じます。
これを造るにはかなりの困難があり、ある種の予防策を講ずる必要がある。
その第一としては、これに使用する紙も膠(にかわ)も古くてはいけない。新しいものでなくてはならないし、 又裏板金から膠もよく落とす事にあって、若し膠が容易に洗っても落ちないならば微温湯に漬け良く落ちる迄洗ひ落とすとよい。 この板金がその表面に曇りやサビも認められたならば紙やすりでよくよく研磨して表面はピカピカとなし絶対に平らでなくては いけない。 それから紙文字板を取ってこの裏に膠を塗るのであるが、この膠が糊状を呈しているやうにする。 水に漬けた綿を以て紙にしめりをくれてよく伸ばして与えてから、同じく濡れた綿に膠をつけて紙の裏面に万遍なく塗り、 これを板金の上に乗せてから文字板の表面を乾いた綿の大きい塊で中央部から各円周の縁の方によく丁寧に押付けるやうにして 転がしながらハリつけるのだ。 次にこれを綺麗な紙の上に乗せて吸取紙又は普通の紙に積重ね、鍵穴の小穴もよく判明するようにして此の上に重しをする。 この重しとしては適当の大きさの本を紙の上に積重ね、一晩位其の侭にして置くと決して水泡を生ずるが如き事はなく立派に出来る。 但し、この場合に板金の表面は絶対的の平滑を要求されるものだ。

(イ)時計文字面の修繕方法

[問]懐中時計及び掛置時計の指針面の破損したのを再修繕をやるには如何にせばよろしきや御教示を乞ふ。

[答] 時計の指針面の修理に対してはいろいろの異なった工程があるが、然し、特別の用意をもってよいダイアルを造るには 熟練を要するものだ。 それ故に一般の時計技術者に対しては指針面の修理を自身でやる等の事は殆ど問題外とされている。
この方法の如何に係らず先づ最初にダイアルの表面に基礎工作をなすのである。若しダイアルが艶消し仕上 げならばそれは磨いた表面は砂吹付けになるし、又編子状仕上なれば金剛砂でよく磨き上げ真白となしてから仕事に掛かる。 綺麗になった指針面に金及び銀の電気鍍金を施すのである。
エナメルを塗るには刷毛でやってもよいが手際はよくなく、やはり電気焼けを必要とする。 時間文字を書くには彫刻極印で捺印するか又は真鍮彫刻の工程によって文字を書くのである。 それだから、少しのものをやるに不引合であって専門工場に頼むのが最も経済的である。

(ロ)文字板の真鍮足の付け方

[問]懐中時計の文字板を真鍮の足付けの為蝋付けするが甘く行かないし、これが良法を御知らせください。

[答] 文字板に新しい足を付ける事は昔から真鍮の足を用ひるのは失敗しやすいとの非難があるが、 しかし方法が悪い為めで方法さへ良ければ大変によい仕方である。 初め文字板の凹みにその大きさに合わして真鍮棒の基部を広目に造ってこれにハンダ付けするのであるが、 この時にハンダをよく固着するためには古いハンダをよく鑢で落し地板をきれいとなし然る上にハンダ付ける。 するとよく付く又足の上の切込み目を狭める方法等は大切のものである。

(ハ)サムエトーの掃除法に就いて

[問]時計のダイアルの各製造所に於ける掃除方法に就ての御教授を乞ふ。

[答] 普通の時計の指時面の掃除の如きは製造所としては殆どなく、単に駱駄(ラクダ)の毛の乾いたブラシでよく 拭ひ柔らかい布に揮発油をつけて静かに拭ふとよいのです。 お尋ねの事もありますので米国の模範的大工場たるウオルサム懐中時計会社に於ける方法を示す。 同社のダイアルは漆塗りで印刷文字を保護してゐる。 あれ故に完成せるダイアルは漆を剥ぎとりてふれを掃除して再製すると同機の工程をとる。 掃除液としては、ペンソール、ペンチン、炭化ロクロリダ、トリロロリテリニ及び特許懐中時計掃除用液等で軟かに印刷文字 板を拭ふと文字は消え落ちるし更に以上の用液に漬けて置くと漆塗りもよく剥ぎ取れるものだ。 ダイアルの上に小さな掻き傷が付くのは掃除中の不注意から起こるから気をつけなければいけない。

(ニ)掛時計の指針面のエナメル修理法

[問]私共は大型の旧式掛時計を持ってゐるが、この指時面(ダイアル)のエナメルが損したので、 直したいと思いますが数字や線(黒色)を描くに製造所では如何んな材料と種類を使用するか知らせ下さい。

[答] それは銀色のダイアルであるならば、これをラッカアド(塗漆)するには一番に可能性がある。そうして仕上も美しくできます。
これを漆塗りするには最初に指時面の表面の全部をハケで塗り決して二度と同じ場所をブラシで塗らんやうに、 最も迅速なる手際でエナメルを塗らし、これが乾いたらばポトムセメントでこの字や線を描くのであるが、 然しこれをなすには十分なる練習と熟練とを要するのである。 そして若し時々に対する仕事で余り練習を積んでいない場合には特に注意を必要とするのである。 この注意といふのは第一に指時面の上にある古いエナメルをスッカリと剥ぎ落し、これを綺麗に磨き上げ、 その上に銀色エナメルを塗るのであるが、これはラクダの毛ブラシを用ひて塗るのである。 つまり軟らかなものを必要とするのである。文字は空気乾燥用エナメルの一つで文字を描くのである。 これ等の材料は総ての金物屋や家具屋で容易に買入れられるでありませう。 此処に注意すべきは、エナメルの未だ乾かぬ中に文字を書くと墨○がハジムやうな怖れがある。 またダイアルにも裏側に、汚点や錆を防ぐ為に鼠色のエナメルを塗る事宜しいのである。

42. 紙ダイヤルを金板に張る方法

[問]置時計の新しい白色のゴム塗紙の指時面を貼る場合、金属板との密着がなかなか面倒であって平らに 速やかに貼れない内に固く膠着するので困る。これが処方を知り度し。

[答] この金属板にゴム引ダイアルを貼るには最初のダイアルをよく水に浸し、出来るだけ紙を延ばし、それから薄い糊で貼るのだ。 若し古ダイアルとならば、最初に古ダイアルを剥がすが、若しこれがペンキ塗りダイアルの場合には何処のペンキ屋にも売ってゐる ペンキ除去液を持って古ペンキを取り去り、紙ダイアルには水をつけて剥がし、 その後を紙鑢で擦り金板がピカピカになるまで磨き立てるのです。 金板が滑らかでないとうまく紙が貼れません。 ダイアルを金属板に貼る場合には、水に漬けた紙を取って裏に糊をつけ板にのせダイアルの中心点から四方に引っ張るようにして 手で撫でながら張ると綺麗に張れますし、多少貼りたてに皺があっても乾燥に従って平らになります。

43. 時計地板のろう付けの良法

[問]時計の二枚の薄い鉄板をブリキにろう付けするやうにうまくやるには如何にせばよいか。

[答] 時計はブリキの様な粗雑なものでないから苦心を要する。 宝石の嵌めこみ釣合ったものの穴を填め替へる為にする蝋付水(強塩酸)を両者の接合面に塗り鑞の塊を置きこれを火の上に置くが 焼鏝で熱すると錫が溶けて流れ込んで鑞付けが完成するのが普通の方法だが、特別の時計のやうな場合には二つの部分の中 小さい方を鑞付けする面に錫鍍金を弱くし次に鑞付けを極少量に使用してやると仕上げの手際がよくなるのである。 又特別の場合には小さい部分をピンセットに挟み針金でピンセットの銅を真鍮の縁金でシッカリと締め此の板に鑞付水を塗り 錫鑞を鍍金面の六及至十全部が止針の頭位の大きさに作らるゝように置き、これをアルコールランプの火の焔にさらし錫が流れて 全部を平均に鍍金する為めに錫付用の小さい鉄片で磨き火から遠さけることだ。 それから大変に良く鑞付が出来て余分の錫鑞が流れ出ない事になる。

44. 針に色付けの方法

[問]私はグランド・フェザア型の時計を持ってゐますが、この鋼鉄指時針のセットを造ったのです。 さうしてこれを青黒色(ブリューブラック)に色付けたいと思ひます。 私はこの指針を砂の中にて熱して、これで青黒色を与へんとしたが紫掛かった青色を呈したのですが、 未だ指時面に充分の調和を呈してゐないのです。 即ちこの色は時計指時面の色相いよりも余り暗過ぎるのです。私はこのハンドルにペンキ塗りをなす積もりはないのですが、 私はこのハンドルに真の金属的の黒味掛かった色を与へたいと思ふのですから、この方法を御教へ下さい。

[答] 貴方が銃砲の金属部分の上に見るやうな黒い鋼鉄青色を要求して居られる事を明瞭に知られます。 燃し腕金を製造するに当たっては単に火器のみに依頼する事なく化学的の操作をも亦採用して貴方の目的を達成しなければ ならないのです。 この化学薬品は時計材料店よりも銃砲店から仕入れた方がよいのです。

45. 巻上げヒゲの緩急作用

[問]懐中時計のプレゲー(捲上げヒゲ)の活動が緩急針に依って如何なる作用を受けるか伺ひ度し

[答] 懐中時計のプレゲーのある原因は脱進機(エスケープメント)の活動を一定化するものであるが、 若し時計の運行に遅速を与へやうとするならば、この緩急針の働きでヒゲを適当の長さに制限するのだ。 換言すると遅らせようとするときは、止針の位置を遠くする処で押へるし、速める場合には近くで押へるのである。 要するに速めるにはヒゲの回転度を速め遅れさせる場合には回転度を遅れさせればよいのです。 特に捲上げヒゲの曲線の特徴は曲線が除去されるのと、外部螺旋の中央への接近との二つの目的を有する。 先づ此の緩曲線は丁度緩急針のなす事が出来ない部分に螺旋全体が入った如し同じ円の中心を拡がるこの螺旋を殆んど 総てといふべきである。それは外部先端まで凡そ四分の三の長さを有するものである事を例外とする。 尚ほその直径が非常に少なく減ずるので螺旋の最後のヒゲ持を有するリバーを縮小する。 これは種々の進行の相違に於て修正し得る緩急針を置きかへる。 即ち、ヒゲ持が戦の上にもっと大きくなるときに行ふのである。 例へば駐ピンの線は四・五粍(ミリメートル)、然しながら捲上げヒゲでは単に二・八粍である。 若しプレゲー(捲上げヒゲ)が尚同じ直径で普通のよりも二廻り余分になる事を計算する。

46. 錆止と用液の成分

[問]懐中時計の掃除用に使用するアンモニアの成分に関して知りたく、 またヘヤースプリング(ヒゲゼンマイ)を掃除した後に鋸屑の上で乾かすと其の後の錆を生ずるやうに思ふが、これが防止法を問ふ。

[答] 普通の薬店で販売してゐるアンモニヤは蒸留水に二分のアンモニア○斯を混合して出来たものである。 このアンモニアの成分はいろいろ異なった割合があるが、これは要するに含有するアンモニア○斯の量によって定まるものである。 一般に商業用に販売されてゐるものも異なった割合にいろいろ出来て販売してゐるから、その用途によってそれぞれ適当するものを 買い求めなければならない。 家庭用のアンモニア液として販売されてゐるのは、前にも述べたやうに蒸留水に二分のアンモニア○斯を含有せしめたものである。 また普通薬店で強アンモニア液として売ってゐるものは二種類ある。 その一つは通称二十度アンモニヤと称するもので蒸留水に一割七分のアンモニア○斯を含めたものである。 他は二十八度のものと称し、蒸留水に二割六分のアンモニア○斯を混合して造ったものである。 後者を通常「強性」または「強力」アンモニアと呼ばれてゐるものである。 この二十度又は二十八度のアンモニアを懐中時計の掃除用に使用するのである。 普通の事にはこの強アンモニアを使用する事はない。薬品の混合には水はみな蒸留水を使用するものである。 ヘヤー・スプリングを鋸屑の上で乾かすと、その後に錆がでやしないかとのことであるが、 木屑の中にはいろいろの不純物を含んでゐるから、先づ用液から上げたら、水をよく濯ぎその後に工業用アルコールの中にひたし 水を取る。これを鋸屑の上で乾かすと速く乾くからよく清めて油を引いておけば錆を生ずる恐れはなくなる。

47. 龍頭巻きカンヌキ修理の方法

[問]懐中時計の龍頭捲きの機械の内で屡々故障を生ずるのはカンヌキであるが、 これは如何なる理由から生ずるや又これが修繕の方法は如何すればよいか

[答] 時間を合わせた後に鼓(ツヅミ)車を元へ戻して廻転をなすカンヌキのバネが充分に弾力を欠くに基因するのが多い。 この鼓車がキチ車の根本に入らんからである。 このカンヌキを押すバネがナマであるなら焼きを入れ直す必要がある。 之は手焼きにして青色まで戻すこと、又元のバネが充分焼き入れがしてあって尚ほ且つ弱いなら強いものと入れ替えるべきである。 但し、カンヌキのガタつき又は方向等を充分考慮せねばならぬ事もちろんである。

48. エスケープメントに起るべき欠陥

[問]懐中時計のアンクル、エスケープメントに於いて陥り易い欠陥を知りたし

[答] 懐中時計のアンクル、エスケープメントに起るべき欠陥をこゝに列記すべし
(一)爪石の角度の引張りが不正となる事
(二)両爪石に於ける角度は強すぎる事
(三)アガキ(制限された)は両方とも等しく且つ強くもなく、弱くもないか
(四)振切止(剣先)は短すぎる事
以上の諸点が主にアンクルリバーエスケープメントの欠陥を○起する原因となってゐるのだ。

49. 時計の掃除に就いて

[問]私は長年の間、懐中時計の掃除の時に主要ゼンマイを取外してやる習慣であったがゼンマイを出さず に香箱の蓋を取り去ってゼンマイの油を検査するのみでよいと思ふが、若しこれが正当の掃除法であるならば 将来もこれでやって行けば時間が大変に節約できるし、また取出したり元の位置に戻したりする場合にスプ リングを破損する恐れがないのである。 主要スプリングを取出して掃除するのが本当だ、とあるが何れが当否か御聞きしたいと存じます。

[答] 私の意見としては左(下です)の数点に基礎をおいて論ずるべきである。
(一)油の検査を主要スプリング線の上にのみ現はれているのを見ての判断ではゼンマイの渦巻き間の油の存 否は明らかに見ることは出来ないのである。
(二)貴方の第一条件としての油の存否は余り貴方の方法では有効ではなく且つ之れを正確に油分を見るには 分解掃除を要するのだ。
(三)主要ゼンマイを動かしてこれを再び嵌め込むには何等の危険もないものである。
これから云ふ貴方の方法は単に時間の節約以外にないやうである。 私の結論を申上げるならば親切な時計掃除法には主要スプリングの分解を最上とするものである。 但し、一説にはゼンマイを香箱より取出さずに香箱そのままベンジン中に漬けて油の検査だけでよろしいと言うものもあるが、 ゼンマイの出し入れに無理さして損するよいかとも考へる点もあるから油を検査した場合、油の有無のみならず汚れているか 又は香箱を削ったりする真鍮屑等を調べて之を認めたる場合は必ず之を取出して綺麗に洗浄すべきであります。

50. エスケープメントの越堤の場合

[問]懐中時計の脱進機が、右の(R)及び(L)の受石の両方の上に直面して鎖(とざ)された場合に、 その懐中時計は長さが整調されてゐる主要ゼンマイと共に越堤される可能性がありますか御伺ひ致します。

[答] 御質問に対する御答への要旨は越堤(オバァハング)の条件に関する解釈上にかゝってゐる事によって決する。 御問ひ合せの如く振り石の条件としてフォークスロットの外側にか掴まれてゐるならば、その状態ならば 答へは簡単で貴方のおっしゃる通り然りであると言へる。 何んなればこのフォークは悪い場合に反対側の堤のピンを動かすといふ同じ理由で此の説が成立する。 此の条件の結果として防衛ピン及び反廻転との間に温度のスロートをなす際に起り易いのである。 依って五十一項に於いて答へたように注意して尚ほゼンマイが強過ぎる時は振り当てる丈けで振り切るものではない。 其の場合はゼンマイの弱きものと取替へる方がよい。

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