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懐中時計の基礎知識

9. 各伝車の検査

之等の検査が済んだら、各伝車を分解する前に、夫等の喰合の状態其他を検査するのである。 龍頭を極静かに廻して、即ち、ガンギ車の歯が明瞭に見える位にゆっくりと回転せしむる。 之は文字板の方を上にした時と、反対にした時とを調べなければならない。 そして之等伝の諸車が少しも障りなく、スラスラと廻はる様なれば、之等の喰合、其他にも故障が無いと云ふことになる。
之に反し少しでも引掛る様な気持がある時、即ち、一寸回転が止まっても今少しぜんまいを巻いたら、一度にザット回転する様なのは、 喰合其他に故障がある。 こんな場合でも、種々程度があるのであって、即ちゆっくりと回転せしめて居る時に一寸引掛ったとする。 其時に龍頭を一回巻いたら、直に回転し始むるのもあれば、二回巻かねば回転せないのもあり、 或いは三回四回五回六回と巻かねば回転せないと云ふのもると云ふ具合に、個々の場合に依って異なる。
又何程ネジを巻いても、絶対に回転せないのもある。 之等故障の程度は、一度回転が止まってから龍頭の巻き方が成可く少なくて回転し始むるもの丈、夫れ丈、 故障が少ないことになるのであるが、併し越しようの発見と云ふことは、之に反比例し、故障の程度が小なる丈、 極めて静かに巻かなければ、発見が出来悪いのである。 そして斯かる場合には、何番車と何番カナとが引掛かる為に、回転に故障を及ぼすのであるかを、発見せなければならない。

それは、ガンギ車の一回転毎に引掛るのであったら、ガンギ車及カナ其他に故障があり、四番車の一回転毎に引掛るのであったら、 四番車又はカナ其他に故障があり、其他の各車でも、之と同じ様に何れの車でも、一回転毎に引かかるものは、其車、 カナ他に故障があると見なければならない。

車とカナの故障と云ふのは、夫等の喰合が深過ぎたり、浅過ぎたり、歯が折れたり、曲がったり、反れたり、 傷ついたり、ガサ付いたり其の他ゴミが挟まったりするのを指すので、尚ほ喰合の深浅と云ふことは、 先天的と後天的に区別することが出来る。 先天的とは時計が出来た其時から、深過ぎたり、浅過ぎたりする様に出来て居るのを云ひ、之は安時計に多く、 後天的とは、始めは完全であったものが、種々の原因に依り、ホゾ穴が大きくなったり、ホゾが曲がったり、小さくなったり、 軸真が曲がったり、歯が上下に反れたりして場合等に起るのである。 即ち、何れかの車かが、一回転毎に引っかかるとしたら、其車又はカナの一ヶ所に故障がある場合に限るのであって、 二ヶ所以上の故障がある場合には、一回転の内には、二回以上引掛かることとなるが、 併し同一車に二ヶ所以上の故障があることは滅多にない。

其他軸真・ホゾ・ホゾ穴・穴石等に故障があったり、又は車と車との上下の接触、車と地板、又は押板との接触、其他塵埃或いは、 油と塵埃との固形物の付着等の原因に依る故障もあるから、先ず、今述べた様な方法に依って検査し、若し故障があったら、 之を発見せなければならない。
大抵の故障は、之に依って発見されるが、極く微細なる故障にて、此方法だけでは解り悪い様なのは、之等の車を二つずつ相対せしめ、 他の車は全部取外し、針先にて緩やかに回転せしめて検査を行ふのである。
一寸云ひ遅れて居たが、之を行ふ前に、検査して置かねばならないことは、穴石が割れていたり、傷ついたり、 ホゾ穴が摩滅しホゾの位置に変更を来たしたり、軸真やホゾ穴が曲がったり、折れたりしては居ないか、歯車が反れて各歯車相互、 又は地板や押板等と接触する様なことはないか、各車軸は適当なる天地のユトリを有するか、と云ふ様なことである。
之等の方法を取ったら、故障の発見が出来るから、直に全部の分解を行ひ、其故障ある部分品を、 尚ほ一度十分に検査をなして修理を行ふのであるが、念の為其他の各部分品も各別に一個宛細密に検査を行ふのである。 先ず疵見眼鏡を使用して、歯車やカナ・ホゾ等が摩滅したり、ガザ付く様になったり、曲がったり、折れたり、 傷付いたりしては居ないか、軸真が曲がったり、歯車やカナの間に塵埃や油の固まり等が挟まったり、 軸真やカナ等の鋼の部分が錆びたり、ホゾの肩に油の固まり等がくっ付いたりしては居ないか等を調べ終わったら、 今度は穴石やホゾ穴、押板等を調ぶる。 穴石やホゾ穴等の検査は、分解前に調べたの以外に、穴の内部がガザ付いたり、傷付いたりしては居ないか、 尚ほそれ以外に、油を保存せしむる為に穴の外面に作られたる杯形の凹所は、完全なりや等も調べる。 押板に就いては反れては居ないか、又足が付いて居るのであれば、其足が曲がったり、折れたり、或いは地板の穴に対し緩過ぎて、 ガタ付くようになったりしては居ないか、足がないものは地板にある柱はどうか、 柱と押板の穴との嵌まり具合はどうであるか等も検査するのである。 天府・天真・伝車・軸真等の反れたのや曲がったのを調べるには、具合見を使用せねばならない。

10. 香箱と全舞の検査

次に、香箱や全舞の検査に移る。 香箱の歯車の検査は、伝車と一緒に済んだのであるから、今度は胴や蓋や内部の検査を行ふ。 胴に凹凸が出来たり、歪んだりしては居ないか、蓋と胴は真円で正確にキチット嵌り込んで居るか、 緩くて自然に取れる様になっては居ないか、蓋が内外何れかの方向にか反れたり凹凸が出来たりしては居ないか、 それから蓋と香箱の胴とには一定の合印があって、それが合ふ様に嵌められて居なければならないのであるから、 それが正確に合って居るか、どうかと云ふ様なことを調べたら、蓋を取り除けて、 香箱と蓋に対する全舞のユトリが有るか否かを調べる。 此のユトリは極く僅かにあったら宜敷ひ。 全舞のユトリがなく蓋に閊ゆれば、全舞の力を弱くし、又は全然無力とする。 全舞の長さは全舞が香箱内にて戻ってしまって居る時に、全舞の渦の密集の幅と、其の密集の内端より、 香箱真の外面迄との幅が同じ位、即ち香箱半径の半分足らずの密集の度を適度とする。 それから、香箱真と全舞とを取り出して、全舞の弾力を調べる。 之は新しい全舞を止輪より取り出したる時と同じ位に、広がるのでなくてはいけないのであって、広がり方が寡いのは、 取り替える必要がある。

▲ ゼンマイの適度

次に、香箱真のホゾが摩滅したり、傷付いたり、ガザ付いたりする様になって居ないか、 香箱内に於けるユトリは適當なりや全舞のかかるイボは完全であるか等を調べる。 それから香箱の内面は完全で滑であるか、全舞の外端のかかるイボは摩滅して、全舞が外れ易い様になっては居ないか等を検査する。

之れで、一通りの検査が済んだのだから、洗ひ掃除や、修理をして組み立てるのであるが、 併し余り汚れて居て検査に不便を感ずる様であったら、掃除後に検査を行ふ方がいいのである。

之れ丈で、検査は十分でなければならないのであるが、懐中腕等は、殊に小さくなればなる程極く僅少の故障で運転を停止するから、 之れ丈の検査を行っても、尚ほ運転を停止することが往々ある。 殊に初学者は尚更であるから、組立てに際しても、今迄行ったのと大同小異即ち其の時計の状況に応じ、 取捨選択して検査を行ひつつ組立てを行ふべきである。 例へば、一個の車をヒゲ箸に挟んで、地板の上に持って来る間に於いても、糸埃等が飛んで来て付着する様なことが往々あるから、 精密に疵見にて検査をなし、小さき一本の糸埃にても付着したら、ヒゲ箸にて取去ってからでなければ、組み立ててはいけない。

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代)

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