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懐中時計の基礎知識

6. 整動器の確認

先ず簡単に整動器の動作関係を述べて此部分の検査に取りかかる。

ガンギ車を手前に、アンクルを前方にして眺めたる時に、向かって左の爪石を前方爪石と云ひ、右方の爪石を後方爪石と云ふ。 ユトリ留栓(バンキングピン)も之に準じて前方後方と呼ぶ。
今ガンギ車の歯が前方の爪石を閉止してる結果として、アンクル竿は前方のアンクルユトリ留栓に押へ付けられて居り、 タボ石は未だ戻って来ないと云ふ状態にあると仮定する。 此際指先にて天府を軽く押へて、静かにユックリと後方に廻す。 そしてタボ石が刺股に入り込み、僅かに刺股を後方に持ち運べば、バンキングピンとアンクル竿とが少し離れると同時に、 ガンギ車の閉止角(ロッキングコーナー)とアンクル爪石の閉止面との閉止(ロック)が外れる。 之が外れると同時に爪石の開進面(インパルスフェース)と、ガンギ歯の開進面との角度の関係に依って、 ガンギ歯が爪石を蹴り込む。 爪石は蹴られたる力に依ってパット開き、其の結果としてアンクル刺股がタボ石を蹴って、天府の回転に力を添へつつ、 振切止(ガードピン)が、タボ座の切込を通過する頃迄其力が持続さるるのである。 そしてガンギ歯の背角と、爪石の背角とが離れると同時に、其次の歯と後方の爪石とが衝突する。 即ち後方の爪石で、ガンギ歯を受止めると云ふことになる。 そうすればガンギ歯と爪石との閉止面の角度に依って、爪石をガンギ歯の方に少し辷り込ませるから、 従ってアンクル竿は後方のバンキングピン迄引付けられる。
今度は後方に回転したる天府が戻って来て、今迄述べたのと同様の働きをなし、全舞の力がなくなる迄之を繰り返す。 而して前方爪石の閉止状態は、押へ付けられたる気味で、後方の爪石は引付けられたる気味であるから、 従ってアンクル竿も前方のバンキングピンに対しては押へられ、後方には引付けられたる形である。

爪石とガンギ歯との衝突する所の下部地板に二個の円形の穴が穿たれてあるが、 之は爪石とガンギ歯との動作関係を見る為のものであるから、此穴から開進・閉止の状態を注視して調べるのである。 之を調べるには指を以て軽く天府を押へ静かに回転せしむる。 閉止の深さは双方共必ず同一なるを要する。
深過ぎれば天府の回転力を弱くする。何となれば爪石の閉止面よりガンギ歯を外して開進面に移すのに其距離が大なれば即  閉止が深ければ、夫れ丈大なる力を要し、其距離が小なれば即ち閉止が浅ければ夫れ丈小なる力で良い理由であって、 而して之を外す所の力は、天府の回転力に依るのであるからである。

又ガンギ歯が、爪石の閉止角を外れて、開進面に落下する様ではいけないので、成可く浅く、必ず閉止面に落下せなければならない。 そして落下すると同時に、爪石はガンギ歯の方に、極僅かに辷り込むと云ふ傾向がなければならないから、 之等を其穴より注視して、正しいかどうかと云ふことを検査する。
次にバンキングピン即ちアンクルユトリ止は、正しい位置にあるや否やを調べる。 之はアンクル竿が、バンキングピンに押へ付けられ、又は引付けられて居る際に、振切止栓即ちガードピンとタボ座との間に、 僅かのユトリがあって而して此ユトリは、双方共同一でなければならない。 此のユトリが余り大に過ぎれば、ガンギ歯と爪石との閉止を深くして、天府の回転力を削ぐのである。

次にランを見る。アンクル竿を一方のバンキングピンに接せしめて置いて、タボ石が戻って来ない様に天府を指にて押へて居て、 然る後爪石とガンギ歯との閉止が外れない程度に、針先にてアンクル竿をタボ座の方に少し動かしてから、 針を取り去ればアンクル竿は元のバンキングピン迄、パット勢い良く戻る。 之をランと云ひ極く僅かにあったらいいので、余り此ランが大に過ぐれば、天府運動の力を削ぐことになる。
次にタボ石と刺股との関係を検査する。 タボ石は刺股に余り深く蹴り込んではいけないので、刺股を持ち運ぶ範囲に於て、最も浅く蹴り込む様になって居なければならない。 それから、タボ石が刺股の幅に対する余裕が有るや否や、之は極く僅かのユトリがあればいいので、余りユトリが大に過ぎる様に、 タボ石が小ではいけない。 即ちユトリが無ければ蹴り込むことが出来ず、ユトリが大に過ぎれば天府の回転力を弱くすると云ふ結果になる。
次に刺股はタボ座、又は地板等に接触せないかを調べる。 之は決して接触してはいけない。次に振切止は刺股の中央にあって、そして振切止の通過する所のタボ座の切込に対して、 極く僅かのユトリが有って、其の切込が廻って来ない中は、決して通過しない様でなければならない。 此のユトリが無ければ天府は回転せず、反対にユトリが大に過ぎれば、切込が廻って来ない中に通過して、所謂振切を起すのである。 そして二重タボ座であったら、側面から見て下部タボ座の縁の中央に振切止の先端が位置する様でなければならないから 之等を詳しく調べる。 若し此の位置が上又は下に外れて居たら、振切止の効力は全然無くなってしまふのである。

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代)

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