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懐中時計の基礎知識

16. 伝車のカナ並びに軸真

カナの摩滅したり、曲がったり、折れたりしたのは、修理は出来ないから是非とも取替えなければならない。 ホゾが片一方だけ折れて居る場合には、入ホゾを行ってもいいが、本来は取替えた方がいい。 ホゾの曲がって居るのは、天真の場合と同様にして直す。

17. 巻真、ワキ車等

全舞を巻いたり、釼を廻したりする所の諸車・ワキ車等は、鋼製であるから、之等の摩滅したり、折れたりしたのは、 絶対に修理は出来ない。新品と取替えるより外に方法は無いのであるが、只一つ、修理が出来る場合がある。 之は直接其の車に修理を施すのではなく、他の箇所を変更することに依って、間接に出来るのである。 それは摩滅に依ってギチ車と巻伝車或は巻車と中央車(ロッキングバー式の場合)とが、完全に喰合はせることが出来ずして、 其の連絡が取れなかったり、具合が悪かったりする場合に、巻伝車、或は中央車の下部の台、即ち押板或は地板を削って、 巻伝車、或は中央車を少し沈ませ、ギチ車と巻伝車、或は巻車と中央車との喰合を深くして、連絡が取れる様に、 即ち掛かる様にするのである。 而して其の削切はレースがいいのであるが、之がない人は、鑢にて摩削しても宜しい。 此際は巻伝車の嵌まる所の柱を削切せない様、又押、或は地板の他の部分を瑕付けない様、注意を要する。 そして、之等巻車・釼廻車・ワキ車等の中で、最も摩滅し易く、故障を来たし易いのは、此のギチ車と巻伝車、 或は巻車と中央車との二車の喰合せ箇所である。

▲ レース其他

18. 龍頭と龍頭真

龍頭は、龍頭真(龍真)の嵌まる所の穴が、四角のものとネジになったものとがある。 龍頭の破損せしものは、新品と取替えるより外ない。 龍真が摩滅したり、破損したりしたものも、同様取替えなければならない。 之は其の製作が簡易であって、初心者でも容易に作ることが出来る。 之は時計に依って大きさ、長さ、形状等が異なるから、 各其の時計のギチ車・ツヅミ車・首・龍頭足の穴・龍真先の嵌まる穴等に合わせて作る。 之はレース其他の器械がなく共、四割栓摺にスチールを挟み、魚印の小鑢にて摩削し製作することが出来る。 龍真の切方は改めて後述する。 龍頭と龍真との嵌まり方が、緩かったり離れたりするのは、龍頭の足の中央位に嵌まる箇所の龍真の所を、 鑢にて少し切込を付けて、之を嵌め込んでから、丁度其の上にあたる所の龍頭の足を釼抜箸にて、凹みが出来る位に挟み付けたら宜しい。

▲ スイス式 龍頭引出剣廻表車 龍頭巻装置
▲ 龍頭と龍真が離れ易い場合の締め付け方

19. 香箱

香箱の歯が折れたのは、入歯をしてもいいが、成可は取替えた方が宜しい。 破損の程度が大きいのは勿論取替えなければならない。 香箱蓋が緩いのは、蓋の周円を一様に凹凸が出来ない様に、金槌で敲けば宜しい。 香箱真にユトリがないのは、香箱の底か又は蓋を、其穴より少し大きい位の目打台の穴の上に乗せ、内面にタガネをあてて、 外方に向って少し打出したらいい。 此のタガネの大きさは、香箱又は蓋の穴より少し大きく、目打台の穴より少し小さい位のものでなければならない。 香箱が押や、二番車や、地板等に接触するのは、前同様香箱と蓋とを何れかの方にか打出して、香箱の位置を替へ之を防ぐことが出来る。

香箱の、全舞引掛が破損して居る時には、新たに作る。 之は香箱の胴を挟めば、引掛が出来る様になった工具があるから、之を使用すれば直に出来るが、 若し道具が無い場合には、胴に斜めに穴を穿って、ネジ釘又は金属の棒を確り嵌め込んで、外端は胴に接して、 内端は適当の長さに、之を切断したら宜しい。

20. 香箱真

之は滅多に損傷を蒙らないが、全舞引掛が摩滅したり、又は折れたりして居る場合には、其箇所に穴を穿って、 鋼の栓を打込み、適当の大きさに切断磨削して作る。

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代)

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