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掛置時計の基礎知識

6. 掛時計の掃除・組立

掃除

掛置時計用刷毛に揮発油を付けて、油や塵芥其の他の付着物全部を洗い落し、布片を以て綺麗に拭き取る。 此の布片は、毛立って綿毛が附着する様なのはいけない。 細かい瓦斯織り(がすおり)の毛立たない様なのを使用する。

ホゾ先は布片を蔽ひ、其の上より拇指と示指又は中指との間に確り挟んで、廻しつつ拭き取る。 歯車は外方に向って拭き取るのであって、横や内方に向って拭けば、歯に布片が引掛かって、糸毛を附着せしむる(おそれ)がある。

刷毛にて洗ふ際、最も手を入れねばならない部分は、歯車やカナで、此所には決して何物も挟まったり、附着したりしない様、 洗って置く。ホゾ穴は懐中同様掃除木を入れて掃除する。

天真の受金は殊に良く掃除し、最後に又掃除木にて良く掃除する。 全舞は揮発油を少し付け布片でしごいて拭き取るのだが、内側の方の渦は、余り伸べたら後で切れる虞があるから、 此の辺は全舞を円錐形に押出して、内外両面より拭く。

掃除は熟練すれば、全部洗ってから之が乾かない間に拭き取る事が出来るのであるが、初めの内は中々難しく、 其の内に洗ったのは乾いてしまう様になるから、少し宛洗って拭くと云ふ具合にして段々慣らす。 全舞を掃除する時には、一番車軸より取外さず、其の儘やって宜しい。

組立

掃除が出来上がったら組立に取掛かる。 組立に際しては、第一に全舞を紐又は金の輪に入れ込む。 紐の大きさは余り小さかったら切れるし、大に過ぎたら邪魔になるから、先ず二番車の軸真位の大きさで宜しい。 之は糸紐でも麻紐でも構わないが、糸紐の方が毛立たずして使ひよい。 輪の大きさは、手の四本の指の元の方に、一巻きしたのより、少し大きい位(普通の掛時計の場合)でいいから、之を引解に結ぶ。 全舞の入れ方は、紐の結び目が丁度全舞の外端の柱に嵌まる輪の窪みの中に当たる様にして、外端より順次入れ込むのである。 左手で全舞を握り右手で巻き込んで行くのだが、右手で巻き込んだ丈は左手の指全部を利用して、 確実に次々に押へ込んで行かなければならない。 相当巻込んだる際、此の押へ込が悪かったならば、巻込んだ全舞は一時に飛び出し、 手其他に負傷する様なことがないとも限らないから、充分注意して確実にやる。

巻込む際は、輪より歯車が下になる様にする。 全舞の巻込が出来たら、先ず全舞と一番車を地板の固有の場所に嵌め込む。 次に傘車の嵌まる部分の長釼真に少し注油をなして、傘車を嵌め之を同様地板に嵌め込む。 それから、時間の方も時間内の方も順々に全部固有の場所に嵌め込んだら、押板を嵌め、 後方即ち一番車の両方のナットを少し締めておいて、順次前方に向って夫々嵌込んで行く。
先ず時間の方を先に入れ込んで、其所のナットを締めてから、次に時間打の方の二番車・三番車・一番挺軸・二番挺軸・ 四番車・風切車の順に入れる。 そして全部正しく嵌め込んだら、全部のナットを確実に締付ける。
此の際、注意すべき事は、時間打の三番車と四番車との位置である。 之は三番車の挺押開円盤の切込の中央に五番挺が入り込んで居る時に、六番挺の鈎に四番車ピンが引掛かる様に、 正確に位置されなければならない。 若し之が多少でも違って居たら、全舞が戻ってしまう迄、時間を打ち続けるから、其の時には前方のナットを緩めるか取外すかして、 風切車を取出し、次に四番車の上ホゾのみ、押板より外したら、三番車との接触が外れるから、之を適当の位置に廻して、 三番車との位置を合わせ、静かに嵌め込み少し全舞を巻いて試し、正確であったら、風切車を嵌めナットを締付けて、 今度は全舞を九合目位に舞いて、長釼を一寸嵌め、之を廻して一時より十二時迄全部を打たせて、充分試さなければならない。 それから之等の車を外したり、嵌めたりする時には、他の車や部分品が決して外れない様、 押板を指に手心して押さえて居なければならない。 此の際若し全舞を巻いて居る時であったら、必ず之を全部戻してからでなければ、車の出し入れを行ってはならない。

そして、之を正確に合わせナットを締付けたら、アンクルを取付け、全舞を両方共約七八合目位に巻いて注油に取り掛かる。 最後にヤットコで打金発條の先端を挟んで、時間打諸車を廻転せしめつつ、手心を以て適当の強さに地板に締付ける。

注油

注油に当たっては、機械と全舞油とを別にした方が良い。 機械油は高価であるが、全舞油は安価である。

先ず、押板と地板との両面より、総てのホゾ穴に注油をなし、万力車、アンクル下駄歯当にも注油をなす。 次に機械を裏返して、全舞の注油を行ふ。 之は、全舞の渦に成可く平等に行き渡る様にせなければならない。 即ち全舞を八合目位に巻いて置いて、其の上から注油を行ふ。 其の量は一個の全舞に対し、大物用油筆に一杯に油を含ませたのを、六筆許りで宜しい。 之は普通の掛時計の全舞に対する量だから、より小なる全舞であったら、之に準じて量を減ずる。
それから、アンクルを外し、諸車を廻転せしめて置いて、油筆に極く少量の油を附したるものを、 各歯車の一端に一寸触れたらいいので、決して之等に多量の油を附着せしめてはいけない。 之が済んだら、直にアンクルを嵌めて、各車の廻転を止めなければならない。 注油が済んだら、今度は振竿を取付けて、之が抜け去らない様、確りヤットコで挟み付ける。 そして、アンクルの輪と接触する箇所に、少量の注油をなす。

一般に素人は、油を差し過ぎる傾向があるから、少し足らないと思うくらいにしたら、適度を得るのである。 その他、総て摩擦する箇所には、少量の注油をなす。

天府振は之をビートの姿勢に直してから、ケースに取付け、玉振は機械をケースに取付けてから、ビートの姿勢に直し文字板を取付ける。 其の方法に就いてはエスケープメントの章で詳しく述べてあるから、参照すべし。

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代の発行物)

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