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掛置時計の基礎知識

4. 置時計の目覚装置

目覚装置は掛時計には殆ど無く、置時計の中でも、机置の小型のものに装置され、大別して二とする。 一つは単に目覚専用で指定の時間に鈴を鳴らし、一つは娯楽を兼ねたもので、種々の歌を入れたもの、即ちオルゴル入目覚である。

目覚の中にて、値最も低廉であって、且つ最も多く使用されて居るものはヘソ目覚である。 オルゴル入目覚装置は、多少趣きを異にして居るが、併し一般の原理は同一で、ヘソ目覚に就いて合点したら自然と了解される。 目覚専用のものでも、少々異なるものがあるが、併し之も前同様であるから、ヘソ目覚に就いて説明する。 目覚の部分品は次の通りである。

  1. 全舞、一番車、万力車、コハゼ及刎並巻止
  2. 二番車、二番カナ
  3. 三番車、三番カナ
  4. 下駄歯、鈴打及足
  5. 目覚管制車、管制車押栓
  6. 打金管制刎

目覚の全舞は、時間の全舞より小さい。そして時間打の分と同様一番車、万力車、コハゼ、刎等同一軸真に取付けてあって、 其の働きも時間打の分と同様である。其の裏面即ち文字板裏に巻止が付いて居る。 此の巻止は二個で、一個は一番車軸に、一個は別に取付けてあって、此の二個の喰合に依って、 巻く方も解ける方も共に制限されて居る。 之は或一程度以上の全舞が解くれば、時間の方の三番車を圧迫し其の回転を停止せしむる様になるから、 之を防ぐ為に取付けられたものである。 稀には、此の巻止のないのがあるが、こんなのは其の代りに地板に、一本の栓を打込んであって、此の栓に依って、 時間の方の三番車に接触するのを防ぐ様にしてある。

二番車及カナは、単に三番車に力を伝へるに過ぎないのであるが、三番車は其の歯が少し他の諸車の歯と形状を異にし、 即ち歯は歯先より同一の傾斜を以て直線に切ってあって、十七本の歯を持って居る。 之は下駄歯に交互に喰合せては外し外して、下駄歯軸に取付けられたる鈴打を、振動せしめ鈴を打たす作用をなす。

鈴は側の外部の上部に取付けてあって、鈴打は側の切開いたる所より突出し、鈴の内側迄来て居る。

以上の装置丈であったら、全舞を巻くと同時に、何時でも全舞が全部解ける迄、鈴を打ち続けるから、 之れ丈では目覚の効用はなさない。 それで鈴打の振動を止めて、指定の時間に鈴を打たせる装置が必要である。 それで下駄歯軸には、鈴打と直角に一本の鉄線が取付けてあって、これを管制刎で支へ、鈴打の振動を防ぐ為のもので、 之を鈴打の足と云ふ。

管制刎は文字板裏に取付けられて、其の先端は直角に曲げられ、機械の内部に突出して鈴打の足を止め、 鈴打の振動を防ぐのである。 併し之は管制車より圧迫を受けて居る間であって、圧迫が無くなった際には、其の刎の弾力にて、 其れ丈管制車を文字板の方に押上げ、同時に其の先端も鈴打の足との接触が外れ、 文字板の方向に引込み、鈴は鳴り出すのである。

管制車は目安釼と同一の軸に取付けられ、傘車即ち短釼車と同数の歯を有し、傘車と同様、日裏伝車のカナに依って回転するから、 従って其の回転数も丁度傘車と同数である。 そして管制車の上部は筒になって居て、丁度硝子製の円形の印肉入の蓋を、仰向けにした様な形になって、 其の縁の一部を切り取ってある。 其の切込の形状は、押栓の落込む方向は直角に、脱出する方向は緩傾斜を付して切取ってある。 そして此の管制車は、其の軸に直角に打込まれたる、短い一本の鉄線に依って支持されて居る。 此の栓の一端は管制車の筒より少し外部に出る位の長さに、反対の一端は筒の内部に接触せない様に、成る可く短くしてある。 管制車は此の栓の長い方の端に依って、筒の上面を圧迫されつつ回転する、そして筒の切込が其の栓の所に廻って来たら、 切込の底部が栓に接触する迄、管制車に依って押上られる。 即ち管制刎は管制車の切込に依って文字板の方に上る。 即ち鈴打の足を止めて居る先端が引込んで、鈴打の足との接触を外すことを許容されたこととなる。 そこで、鈴が鳴り出し目覚の用をなすのである。

目安釼を合せるには、長釼を三十分、即ち六時の所にやって置いて(勿論短釼も長釼に合せて取付けたる後) 目安釼を嵌める軸を矢の方向に静かに廻して来れば、カチッと音がする。 之は即ち栓が、管制車筒の切込に落込んで、管制釼と鈴打足との接触が外れた証拠であるから、 此際釼が五時三十分を指して居たと仮定すれば、目安釼を丁度五時三十分を指す位置に嵌めたらいい。 何故に三十分を選んだかと云えば、之は単に合せるに都合がいいと云ふ丈で、三十分でなくとも何所でも合せられないことはない。 然らば丁度長釼が十二時を指した時が、尚ほ都合がいいではないかと疑問が起るが、併し大概の時計では目安釼の軸は、 長釼と十二時との間にあって、丁度長釼の下に目安釼がある様になるので、嵌め悪いから特に三十分、 即ち六時の所を選んだ次第である。 目安釼は時間の釼と正確に合せられるから、若し合はなかった場合は、正確なる迄何度でも嵌め直さなければならない。 其れは管制車と傘車とが同数の歯を有し、双方共一個の日裏伝車のカナに依って回転せしめられるのであるから、 必ず正確に合はなければならないのである。

鈴打は、鈴に寄り過ぎては、振動せず、遠過ぎれば振動しても鈴を打たないから、機械や鈴を側に取付けてから試して悪ければ、 ヤットコにて鈴打竿を挟んで、之をドチラかに少し宛曲げて試し、正確に鈴を鳴らす様にして置く。 時として鈴打は正して修正されて居るのに、指定の時間に管制刎は落ちても、鈴を打たないことがある。 之は大抵鈴打の足と管制刎の接触が、深過ぎる場合が多いのだから、足を少し反対の方向に曲げる。 又指定の時間より前に、不定期に鈴を打つ場合がある。之は前と反対に少し接触が浅過ぎるのだから、 管制刎の方に少し足を曲げたら宜しい。

全舞を巻いて直ぐに鈴が鳴ってしまうのは、管制刎と鈴打足との接触が利いて居ないので、 之は足が反対の方に曲がり過ぎて居るか、足がグラ付いて利かない様になって居るか、又は管制車押栓が折れるか離れるか、 甚敷く文字板の方に曲がるかして居る為に、管制車が刎を押へ込むことが出来ないのか、何れかである。

鈴が鳴ったら、必ず時計が止まると云ふのがある。 之は全舞が解け過ぎて、時間の方の三番車を圧迫するからである。 其の原因は巻止が無くなって居るか、利かない様になって居るか、取付け方が悪いか又は巻止が無い分であったら、 其の代用として、全舞が時間の三番車に接触するのを防ぐ為に、地板に打込んである栓が無くなって居るか、 何れかである。 巻止は一番車軸に取付けてあるのが、凸状になって居て、夫れと喰合わせる為に、其の側に取付けてあるのが凹状になって居る。

巻止を正しく取付けるには、凹形巻止を正しく一番軸に向けて置く。そして全舞を九分通り巻いたる時に、 凸形巻止を凹形巻止の窪みの向って右外側に(凹形を前方に凸形を手前にして)接する様にして嵌込み、 そして凸形巻止が凹形巻止の上を乗り越へる様なことがない様、確り締付けて置く。

其の他歯車・カナ・ホゾ・ホゾ穴・全舞等の修理は、懐中時計や掛置時計の時間の方の修理と同様に取扱ったらよい。

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代の発行物)

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