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変形型 掛時計

1. フクロ発声掛時計 【TOKIWA&CO】

資料 1

フクロ発声掛時計

No.295 オリーブ色

No.296 クリーム色

メーカー 製造年代 大きさ 仕様・備考
常盤商会製造
吉田時計店販売
昭和初期 長さ 一尺五寸 当時の値段 21円 (昭和8年 吉田時計店カタログより)

まずは、仕組みの説明です

文字板はプラスチック(ベーク?)のような材質の一枚板にグリーンのペイントを施し、その上に文字板と同じ材質の数字を 貼り付けたもので、フクロウが木にとまった姿を彫刻した一枚板(本体表側)に裏から釘止されています。
その裏側には台形の頭のランドセルをしょっているような形のケースがあり、これは蝶番で横に開くように出来ています。

機械は名古屋のボンボンに使う普通のアンソニア式機械が使われています。 ただアンクルが裏から表へ移動して(変更されて)います。 吉田時計店のカタログではボンボン時計は名古屋の明治時計やメーカー不明の名古屋のS.MIZUなどを取り扱っていて、 機械はこの辺から導入したのかも知れません。或いは名古屋時計メーカーの関与が有ったのかもしれません。

上板(地板)の左側の上に鳩時計で使われるようなふいごが乗っかってます。 アンクルに止められた細いワイヤーが左右連結した目玉ワイヤーと繋がっていて、尻尾の格好をした振子の動きに連動してセルロイド目玉を左右に動かします。 もう一本時打装置から細いワイヤーが伸びていて口元に連結されています。 時打ち時間にはふいごが動いて鳩時計と同じくホッ、ホッと時刻の数だけ鳴きます。 それと連動して口元に連結されたワイヤーを引っ張って鳴いた数だけ口を開く事になります。 この辺はハト時計と同じです。外形の姿が違うとカッコウはカッコウにハトはハトにフクロウはフクロウの鳴き声に聞こえるのが不思議で、傑作です(笑)

ケースを開けるときこのワイヤーを外さずにケースを開いてしまうとワイヤーとその連結部を痛めるのでご注意です。 機械を納める箱は欅に似た栓の木で作られていて両サイド、チューリップの模様の透かし彫りになり裏から布が貼られています。 このフクロ発声掛時計は4種類ありますが、いずれも機械、箱の構造は同じと思います。

蝶番で横に開きます

左右に動くセルロイドの目玉

製造会社について

下は東洋時計の販売部門、吉田時計店商報昭和10年のカタログです。
同じカタログの置時計にはそれぞれタイトルに東洋と書いてあるのにこのフクロウ掛時計のページにはタイトルに東洋の名前が 入っていません。 他の年度のカタログを見ると目玉時計と言うタイトルで目玉置時計とこのフクロウ掛時計が混在したページが有り、 この目玉置時計の方は明らかに東洋製として知られていますのでフクロウも東洋製では無いかと言われてきました。 しかし東洋の掛時計というのも余り聞きませんので疑問も残っていました。

ケースの刻印

TOKIWA & CO

右下をご覧ください。 戦前の業界マーク大鑑に「各種新案掛置時計 常盤商会」東京市本郷区駒込神明町331 と言うフクロウを商標にした会社があります。この会社がフクロ発声掛時計の製造元です。 フクロウ時計のケースにある刻印、TOKIWA & CO がこの会社に当たります。

常盤商会は、このフクロ発声掛時計の他に鳩鳴時計も製造していました。 製造だけでなく、修理部という部署がありフクロ発声掛時計の塗装や彫刻の技術を活かして古い、あるいは売れ残りの置・掛時計を リフォームするような事業も行っていた記録があります。 フクロ発声掛時計は、常盤商会製造、吉田時計店販売と言うルートであったと考えられます。

フクロ発声掛時計にはアンソニア式の機械、独特の変形針など特徴がありますが、 こういった変わり時計は名古屋ものの得意とする所です。 常盤商会の製造面はなんらかの名古屋のメーカーの関与も想像されますが、 古い栄計舎(東京)の機械と、各部の特徴がよく似ていることもあり、名古屋ものであるとも断言できず、詳細はまだ不明です。

吉田時計店商報(東洋時計の販売部門)

昭和10年のカタログより

戦前の業界マーク大鑑より

製造年代と種類の考察

製造年代を考えてみたいと思います。
まず、吉田時計店カタログの昭和7年以前にはフクロ発声掛時計は出てきません。 昭和8年のカタログの確認は出来ていませんが、目玉置時計が昭和8年の発売ですので、やはり同じ頃に発売されたものと思います。 昭和9〜13年のカタログ中にはフクロウ時計、存在確認済み。 また昭和13年以降は国家総動員令に基ずく統制経済のスタートによって置時計の輸出入がストップしますので、 こういった変わり時計も同様に生産中止に追い込まれたものでしょう。

生産種類を見てみましょう。
昭和8〜13年においてはカタログにある、フクロ発声掛時計No.295クリーム色No.296オリーブ色、No.302子持ち、No.303 柏 以上がすべてです。
今回のフクロウはNo.296オリーブ色です。この4種類の範疇に外れるものはリ・プ・ロ?と思った方が良いです。 もちろん最近巷に出回っている中国製のような黒いフクロウは存在しません。

これらの他に戦後版のフクロ発声時計が有ります。
少し大きなアルミ褐色ペイント文字板にMastery KYORITU CLOCKと浮き出し文字があるもので、戦前ものは口もすべて木製ですがこちらは口が金属製です。 名古屋の協立時計工業株式会社(戦後の新浅井時計株よりS26改称)のものです。 当時、外国製のコピーが得意だった日本ですがこのフクロウ時計については外国にモデルが見つからず、 輸入されたカッコー時計をモデルに日本で独自にアレンジされたものではないでしょうか。 コピーから日本独自のスタイルを生み出すセンスは日本のお家芸ですね。

Mastery

協立時計工業株式会社

資料 2 昭和14年のNo.302子持

フクロ発声掛時計の中でも人気の高い「No.302子持」です。出版物にかわいい子供フクロウの目も動く・・・という情報もありましたが 実際は動く構造にはなっておらず、子供フクロウの目は張り付いているそうです。
子持は吉田時計店カタログの昭和13年版にも載っており、これは最後期の製品と思われます。

子供フクロの目は張り付いている

「御祝 昭和14年11月」とある

写真提供 : あんちぃーく掛け時計 あならさん

資料 3 昭和5年のフクロを発見!

興味深いフクロが出できました。左下の写真をご覧ください。
木地にニスを塗った物で彩色した所を剥がしたものではありません。同様のものが幾つか確認されていますのでオリジナルであると 考えられます。この仕様のフクロは吉田時計店カタログには存在しません。 吉田時計店から販売されたものと同様にフクロウのケースの裏側にTOKIWAの刻印があり、 製造元は吉田時計店から販売されたフクロ発声掛時計と同じ常盤商会であることがわかります。
この時計が昭和5年である証拠は右下の裏蓋写真にあります。 書かれている内容は、岐阜県の時計屋さんが昭和5年2月に現在愛知県西尾市の井上時計店より店の看板用にフクロウ時計を買い求め たと言うものです。

昭和五年二月
愛知縣西尾町井上時計店ニテ
店ノ看板ニ買求ム
新品、買入代金 拾八圓五拾銭
岐阜縣養老郡○○町○町 ○○時計店   ○○○○  所有

木地にニス塗りのシンプルなフクロ

左の時計の裏蓋の書き込み

吉田時計店のカタログとこの時計から、フクロ発声掛時計は昭和初期に常盤商会が単独で販売し始め、 それを昭和8年頃から吉田時計店で取り扱い始めたのではないかと推測できます。

お願い

フクロ発声掛時計は大正時代説も有りますが、現在の所上記の他に昭和8年以前の存在を確認出来る資料は見つかっていません。 何か別の資料をお持ちの方はご一報ください。

木地にニス塗りでほぼ同じ仕様

TOKIWA & CO の文字は見当たらず

製造年代は不明。尻尾は複製です。長針も後年の修理で複製部品が取り付けられているようです。(本来は先が三角に膨らんでいないすらりとした針)

最後に、複製品とオリジナルの違い

画像は、左がオリジナルで右がアメリカで新品として売ってるものです。
この時計は人気があるため他にもいろいろな複製品が存在するようですが、よくある複製品の特徴を以下にご紹介します。

左:オリジナル   右:アメリカ製の新品

  1. 外形は似ている(カタログのクリーム色とオリーブ色のタイプが殆んど)文字板以外は木製だが細かい出来は悪い。
  2. ふいごが入ってるものとそうで無い物がある。そうでないものは口は開くが普通のボンボン打ち。
  3. 彩色は真っ黒か赤い口紅を塗った異様な彩色が多い(クリーム色に塗り替えられているものも有るので注意)
  4. 目玉がソフビのような出来が悪い・・これも取り替えられてるものが有る。
  5. 文字板がボンボンの亜鉛板を使った紙文字板が多い、マークもそれらしい国産のマークが入っている。 (亜鉛板文字板はオリジナルには無い)
  6. 文字板はオリジナルはプラ(ベーク)?のような感じで数字が貼り付け浮き出しになっている。
  7. 針はボンボンの針(ハート針)を使っている、オリジナルはカタログに見られるように独特の変形針。
  8. 機械はオリジナルは名古屋のアンソニア式の機械が使われている。 リプロは国産の古いボンボンの流用か中国製の機械を使っているので大体最初から調子が悪い。
  9. 尻尾形振子がチャチで形も違う(尻尾だけオリジナルに似せた物に取り替えられた物もあるので注意、リプロのリプロ?)

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