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農村時計製作所 NOSON

1. SUMMIT 8吋中三針

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SUMMIT 8吋中三針

打方なし

メーカー 製造年代 大きさ 仕様・備考
農村時計製作所
(埼玉県南葛飾郡南桜井村)
昭和24年頃(推定) 全高34cm、幅26.5p、8吋アルミ文字板 中三針10日捲き、打方なし

この時計を手にした時は少し鳥肌が立ちました。 回顧録に掛時計の製造も手がけたらしいことが書かれていたことは確認していましたし、 加えて当時の時計誌に一瞬だけ三種類の掛時計の広告(絵はなく製品名だけ)が掲載されていたことは確認していましたが、 まったく現物が出てこないし、幾度もの人員削減で事業が大変不安定であったため、実際は掛時計の設計・試作・製品化をする体力はなかったのではないかと思っていたからです。

しかも時代は昭和24年で機械は中三針。 昭和24年はシチズンが腕時計で中三針を出し始めたタイミングで目覚しでもパイロット精機などの新興メーカーが中三針を出し始めて中三針の需要が急激に増えた年です。 設計方式は違いますが、岐阜の日本時計の直進式中三針機械の特許出願より農村のこちらの製品化は半年以上早かったようです。

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中三針機械

刻印なし

機械の品質は思ったよりしっかりとしています。あまり使われなかったのかもしれませんが、機械の摩耗は少なく、アンクル竿の角度調整をしたくらいで大変調子よく稼働するようになりました。 とはいえ、工作機械の不足からか細かい工作を避けて仕上げているなど設計上の苦労も見えます。 例えば、針は分針が角穴加工されておらず三本とも押し込むだけのタイプです。 そのままですと針送りの際に長針に力を加えると針がずれてしまいますから、 わざわざ針送りのツマミをつけてこれにて日の裏歯車を回し針送りの操作をするようにしています。目覚しと同じです。 また、日本時計や高野は秒針の取り付けがネジになっていますが、これはネジを切ってなくて押し込んでいるだけです。 秒針の動きは思ったよりぎこちなさはなく、時計の稼働音も大変静かです。 箱の見た目は貧相で豪華さはまったくありませんが、時計全体の雰囲気はまさに新時代の製品でSUMMIT(サミット:頂上)という製品名に恥じないものだと思います。

当時の資料

掛時計が確認できる唯一の広告

7吋スリゲルPastoral
8吋中三針Summit
12吋中三針トーマスSummit

JOURNAL OF THE HOROLOGICAL INSTITUTE OF JAPAN
時計 第一巻 第4号
昭和24年4月1日発行

昭和23年2月に工場の明け渡し命令が下った後の再出発時に目覚しの商標は「リズム」として、 掛時計については、中三針をSUMMIT(サミット:頂上)、二針をPASTORAL(パストラル:いなかの・・)としたと思われます。

国産中三針掛時計の概要

日本時計の記事に「国産初の中三針掛時計」と書いていますが、国産の中三針振子式掛時計の製品化は幾つものメーカーでチャレンジされたことがわかってきましたので、 この時計の発見を期に可能性も含めて販売順を整理しなおしておきます。

  1. 栄計舎 中三針時計装置 昭和23年2月実用新案出願 【現物未確認】
  2. 農村時計SUMMIT中三針掛時計 昭和24年4月製品広告掲載
  3. 日本時計 直進式中三針機械 昭和24年10月31日 実用新案出願
  4. 龍水社 試作のみで製品化はしていないと思われる
  5. 高野精密 昭和30年前後の製品を複数確認

栄計舎の中三針掛時計

栄計舎の中三針は実物を見たことがありませんが、昭和30年頃のメーカーパンフレットの製品一覧に記載されていることから、製品が実在する可能性が高いと思います。 一方、龍水社は品質の問題から試作で終わったようです。

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